« 「納棺夫日記」を読んで | Main | 「ひらめく」チカラ »

トレードオフの関係

「レインマン」という映画で、ダスティン・ホフマンは自閉症だが驚異的な記憶力を持つ男性=レイモンドを演じました。

床に落ちて大量に散らばったマッチを一目見て本数を正確に言い当てたり、分厚い電話帳を全て記憶してしまうなどの場面を覚えている人もいるでしょう。

こういう能力のことをサヴァン能力と言います。

一度見ただけの風景を後から完璧に描くことのできる人がテレビで紹介されていたことがありますが、これもサヴァン能力です。

イギリスのニコラス・ハンフリーという学者が、サヴァン能力に関連して興味深い仮説を唱えています。


ラスコーの洞窟壁画というのがありますね。歴史で勉強した方も多いと思います。
ラスコーの薄暗い洞窟に描かれた牛やライオンなどは実に素晴らしい出来映えで、1万5000年以上前の人類の祖先がこれほどまでに正確な写実力を持っていたことに誰もが驚きます。

ハンフリーによれば、ラスコーなど古代の洞窟壁画は、動物など個々の対象については極めて正確に描かれているのに対して壁画全体の構図が無視されている点など、サヴァン能力を持った人が書く絵に酷似していると言うのです。

サヴァン能力を持つ人はコンピュータのように記憶を正確に脳に定着させることに優れている一方で、記憶を基にさまざまな編集をして別の意味や表現を生み出すといった作業が苦手であるとも言われています。

ハンフリーは、人類の祖先は言語能力や記憶編集能力を持たなかったけれど、見たものを後から正確に表現する能力を保有していたのではないかと推測しているのです。

それは言い換えると、その後の人類は言語能力や記憶を編集する能力を獲得した代わりに、見たものを後から正確に表現する能力が薄れていったと考えられるという訳です。

実際、人類の進化の歴史は、ある能力を獲得するとそれまであった能力を失うというトレードオフの歴史であったと言われています。

トレードオフの関係は現代人にもあてはまるようで、脳科学者によれば、サヴァン能力など突出した能力を持っている人の多くは能力がプラスされているのではなく、一般の人々が持っている能力のいくつかが欠落することで別の能力が突出することが多いのだそうです。

そう言われれば、古今東西の天才達の中には人格的な欠陥を持つ人が少なくなかったようですから、実は人間が運用できる脳活動の総エネルギーはある程度決まっていて、特定の分野に強烈なエネルギーを使うことで、他の分野が犠牲になってしまうのかも知れません。

企業経営でも似たようなことがあります。
短期間で驚異的な成長を遂げる会社が、時として大きなひずみを抱えて倫理面で問題を起こすケースがあるのも、企業全体のエネルギーを一点に集中させ過ぎたがゆえの(あってはならない)トレードオフが起きてしまったと言えるのかも知れません。

企業を運営していく上で、伸ばさねばならない部分があることは当然ですが、失ってはいけないものもあります。

我々は「伸ばさねばならない」点にはすぐに目が向くのですが、そこに集中するあまりに、失ってはいけないものについて無頓着になってしまうことが往々にしてあるように思います。

企業を成長へと導くエネルギーが、失ってはいけないものとのトレードオフにならないように・・・経営者のバランス感覚が問われる部分ですね。

|

« 「納棺夫日記」を読んで | Main | 「ひらめく」チカラ »

Comments

Post a comment



(Not displayed with comment.)


Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.



TrackBack

TrackBack URL for this entry:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/50578/44199151

Listed below are links to weblogs that reference トレードオフの関係:

» 経済ニュース [経済@情報局]
経済・企業・経営の最新ニュースリンクブログ [Read More]

Tracked on March 02, 2009 at 03:20 PM

« 「納棺夫日記」を読んで | Main | 「ひらめく」チカラ »